中山道歩き旅~妻籠宿から大井宿まで~【前編】

南木曽駅

梅雨、南木曽駅より

2021年6月30日7時1分。ボクはJR南木曽駅にいる。
寝ぼけまなこで始発電車に乗り、恵那駅から南木曽までやってきた。こんな朝早いのに車内は通学の生徒たちでいっぱいだった。若いオーラにやや圧倒されている髭面の31歳男性が何をしようとしているかというと…? 中山道を歩こうとしているのだ。

中山道。
恵那・中津川に住んでいれば馴染み深い言葉だろう。市内を通る歴史ある道だ。
江戸時代の五街道のひとつであり、東海道が東京~京都間を海側で結ぶのに対し、中山道は長野など山側を通って結んでいる。距離は全部で500km以上あり、道中には宿場が69ヶ所あるという。
筆者は四国遍路(1周約1,200km)を2周歩いた経験があり、せっかくなら中山道も全区間を踏破してみたいところだが、人間が長期間歩き続ける場合の1日の歩行距離はおおむね30キロ程度が限界なので、500(km)÷30(km/日)=16.66666…(日)と、2週間以上かかる計算になる。とっても魅力的だが大冒険になっちゃうから、とりあえず試しに1日だけ、妻籠宿から大井宿までの約30キロを歩いてみることにした。

そんなわけで梅雨時期の薄曇りの日、ボクは長野県の南木曽駅に来たわけである。

さて、前置きはこのくらいにして、さっそく一つ目のチェックポイント【妻籠宿】へGO!
どれどれ、南木曽駅発→妻籠宿行きのバスは……?

南木曽駅バス時刻表

は??? 1時間以上あと!!! なんでや!!!
いいよ……、3~4キロ程度だから歩きますよ……(徒歩の時速は平地でおおむね4キロなので、1時間程度で着く計算)。まあ、南木曽駅の前も中山道が通っているので問題はナシ。歩く距離が増えたぶんだけ長く楽しめると考えることにする。

ここで自己紹介

筆者:中野周平(1989年生まれ)

2020年冬から中津川市に住んでいる。恵那市岩村町の果樹園に勤務しつつ、絵や文も書く。来年の目標は庭にヒマワリ畑とコスモス畑を作ること。好きな樹木はオオバヤシャブシ。これまでに山口、京都、東京、石川、群馬に住んだことがある。趣味は登山とお絵描き。岐阜といえば「北アルプスで滑落するときは岐阜側へ落ちろ!」(長野側へ落ちると民間ヘリが来て救助費用が高いから)という本当かどうか分からない噂のイメージが強い。

妻籠宿への足取りは軽いぞ

中山道道しるべ

駅を過ぎると早速登り坂。そのあとは時に山ぎわの木陰、時に住宅の横を通りつつ、穏やかな山村ウォークが続く。子供が学校に行くのを見送っていた親とすれ違い、軽く会釈した。地元の人の生活を等身大で垣間見ることができ、そこが歩き旅の良さだと思う。
なんだ普通の生活道か、と思うなかれ。やはりそこは歴史ある中山道、道しるべが充実している。歩く人が多いんだろう。大抵の分岐には設置されているので、地図がなくても迷う心配はない。(筆者は登山用のGPSアプリを補助的に使用しました)

妻籠宿

細かなアップダウンを挟み、7時55分、ひとつめのチェックポイント【妻籠宿】に到着。古い町並みが保存されており、その雰囲気の良さが人気の観光地だ。筆者も一度、蕎麦の食べ放題に来たことがある。(町並み関係ないけど)
入口部分には「口留番所跡」なる史跡があった。中山道を往来する人々を監視するための場所で、江戸時代初期まで存在していたそうだ。車で来ると「ふ~ん」程度で終わるこうした史跡も、歩いて到達すると実感を伴って理解できる。やはり歴史街道は歩いてみるに限る!

妻籠宿トイレ
▲雪隠(トイレ)。こんなところまで無理やり歴史を感じさせなくていいんだよ!(笑)

梅干し
▲一時間ごとに休憩を挟むと良い。山間部にはお店があまり無いため、水分以外にもエナジーゼリーや甘いお菓子、塩分、タンパク質など、登山で言うところの「行動食」を予め用意しておこう。宿場のお店も早朝は閉まっていた。

歴史ある山道を登る

妻籠宿の次は馬籠宿へと向かう。9キロ程度の距離だが、登り坂なので3時間近くかかるだろうか。すぐに山道になったものの、さすがは中山道、道はしっかりと整備されている。
すぐに【大妻籠】なる集落が現れた。妻籠宿の飛び地みたいな存在かしら? こちらも古い建築が保存されている。

家の前の掃除をしている女性と目が合い、にっこりと朝の挨拶をした。朝の挨拶ほど気持ちいいものはない。よし、がんばろう!

馬籠宿への山道

再び山道に。ここからググッと傾斜が上がり、峠を目指して本格的な登山となる。そこには石畳が敷かれ、ただの里山ではないぞ、ということがビシビシ伝わってきた。

登り始めると途端に汗が噴き出てくる。こんな蒸し暑い梅雨時ではなく、春か秋に来ればよかったかな~。なんてことを思っていたら、前方から登山の恰好をしたおじさんが下ってきた。どうやら馬籠宿から歩いてきたようだ。こんな梅雨時に歩いているのは僕くらいのもんだと思っていたので驚いた。「歩いてる人に今日はじめて会ったよ!」とおじさん。仲間の存在はおじさんにとっても嬉しいようだ。

妻籠観光協会のWEBサイトによれば、妻籠~馬籠間だけを歩く3時間のハイキングプランもある。少しだけ中山道を歩いてみたい人にオススメ。馬籠から妻籠に向かった方が(下り坂が多いので)ラクチン、と書いてあった。そりゃそうなんだろうけど……(笑)

人里離れた寂しい山道なので、歩く際は熊鈴を付けておこう。

いちこく御休み処

9時20分、【立場茶屋】に到着。
立場茶屋というのは休憩所のことで、宿場と宿場の間に設けられた旅人憩いの場所。妻籠宿から1時間の距離、たしかに休むのにちょうど良い位置にある。この建物は現在「いちこく御休み処」として開放されており、せっかくなので休ませてもらった。

オープン準備をしている係の人(フライング入店してスミマセン)に話を聞くと、例年中山道を歩く人数は5万人にのぼるという(聞き忘れたが、おそらく妻籠~馬籠エリアでの人数か)。そしてその半数は外国人。外国でトレッキングが大ブームだとは聞くけれど、中山道まで来ているとは知らなかった。
去年(2020年)は新型コロナウイルスの影響で歩く人は減り、1万1千人。それでも平均すると1日に30人ほどが歩いている計算になる。もちろん、春や秋など気候の良いシーズンに集中しているんだろうけれど、結構歩いているもんである。

茶屋の前には大きなしだれ桜があった。春にはきれいに咲いて、疲れた旅人を癒すことだろう。

馬籠宿は山の上

馬籠峠 馬籠峠

9時50分、標高790mの【馬籠峠】に到着。着いたあああ!!!(ぜえぜえ)
道路標識には「岐阜県中津川市」と記載されている。帰ってきたよ、中津川市! 妻籠宿からひたすら登ってようやくたどり着いた峠、しかも県境というロマン! めちゃくちゃ嬉しい。

馬籠峠はかつては長野県内の単なる峠だったが、2005年に長野県の山口村が中津川市に越県合併したことで、長野・岐阜の県境となった。歩き旅の旅人の心境としては、長い坂道を攻略した場所に県境がある方がアツいので、山口村の大いなる決断に拍手を送りたい。

馬籠峠
▲標高777mの看板。行政の人の遊び心が垣間見える。

峠を越えたことで気持ちにゆとりが生じ、軽快に下ってゆく。すると急に展望が開けた。

馬籠峠展望台馬籠峠展望台
▲恵那山ですって!?(雲で見えない)

展望台から少し下ると、ふたつめのチェックポイント【馬籠宿】に到着。
斜面に家屋がズラっと並び、見晴らしも良い。この爽快感と開放感は他の宿場にはない良さだろう。昔の旅人もきっと、峠で疲れたあとにこの景色を見て喜んだんだろうなあ。

馬籠宿 馬籠宿

時刻は10時半。妻籠宿から2時間半かかった。さすがに疲れが出始めている。自動販売機でジュースを買って休憩。お店で何か食べたいとも思ったが、ランチ営業にはまだ早く、五平餅くらいしか売っていないのでとりあえず先へ進むことにしよう。

観光客でにぎわう宿場をあとにし、麓に向かって下り始めた。空の雲はだんだん厚くなってきていた。

後編へ続く

馬籠宿
中山道軌跡

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