|第10回|「本」という媒体を通じて、人がつながる図書館へーー小林光代さん<中津川市立図書館長>

小林光代
●小林光代(こばやしみつよ)さん

中津川市立図書館長。1954年生まれ。秋田県能代市出身。短大を卒業後、イギリスへ留学。帰国後は秋田県内の高校で30年以上司書を務めた。2011年、中津川市が公募した新図書館の館長に就任したが建設は白紙化、現図書館の改革を進めてきた。

2011年、岐阜県中津川市の新図書館長として公募で選ばれ、秋田県から着任した小林光代さん。
ところが当時、まち全体は張り詰めた雰囲気に包まれていました。建設をめぐり市を二分化した論争は市長のリコールにまで発展、新図書館の建設は白紙に。
市民が”図書館アレルギー”になってしまっているような状態の中、立ち止まることなく「みんなの図書館」に向かって様々な取り組みを続けてこられました。

——率直にお聞きします。秋田県から来られて、建設が中止になったとき、どのようなお気持ちだったのでしょう?

小林さん:「がっかりしましたよね。でも、やることは一緒。そう決めました。」

中津川市図書館

——久々に今日ここへ入って、以前よりも館内の雰囲気がすごく明るくなった印象を受けました。

小林さん:「床は張り替えていただいたんですが、レイアウトを変えたり他はとにかくお金をかけずやってきました。(上の写真中央のテーブル)この形、なんだと思います?

——中津川ですね!

小林さん:「そう、中津川の形なんです。

あぁいう状態になって、私はよそからきた人間として、あ〜さみしいな、悲しいなと思ったんです。せめてここに大きな中津川の形を置いて、みんなで仲良くなろうよみたいな、そういうことからはじめようと思いました。

これね、全部"大工さんボランティア"が作ったんです。この木材は、岐阜国体のレスリング会場からいただいた地元の檜のコンパネです。足も檜。森に木を探しに行きました。
このテーブルも、あのテーブルも、あの奥のテーブルも、全部大工さんボランティアが作ってくれたんですよ、みんなの情熱が凝縮したものですね。」

椅子は大工さんボランティアがどこかから受けたものをカラフルに張り替えたそう。

図書館に彩りを添えるのは花ボランティアさん。万葉集にちなんだ花がその一節と共に飾られている箇所もある。


図書館くらぶによって毎月組まれる展示コーナーも好評だそう。

|図書館アレルギーから「愛される図書館」へ

小林さん:「ここまでくるのに、いろいろなことがありました。

トップダウンで命令したら一過性ではできるでしょうけど、心底それがどういう理屈でいいのか、成すべきなのか分かってやるのが強いですよね。
最初のころ、実はボランティアさんとスタッフは口もきかなかったんです、今は信じられませんけど。時間がかかります、まだまだ100%ではないと思うんですが、お互いそこはインテリジェンスの集まりですから。

全て受け入れるようにしながら、啓発をしたり、意識を変えてもらうようにしたり、またこちらが変えられたり、そういう時間を重ねてきたような気がします。」

小林光代

小林さん:「できないことをすぐにノーと言わない。
すぐに決めつけない。お金がない、人がいないをその理由にしない。
やれないことも含めて、まずいことほど即刻に返事をする。それは、スタッフに意識してやらせましたし、自分自身もやってきました。

市民の方に対しても、やれることはやりますが、やれないことはあなたもここの市民のひとりですから一緒に共有しましょう、というようなメッセージを出して一緒になにかいいアイデアがあったら教えてくださいと、そうやってきました。

雑誌には企業スポンサー制度をやったり、寄付を募ったり、どうやったら達成出来るだろうと知恵を絞ったり、市民の方から情報をもらったり、こういうひとりひとりのコネクションって、とっても財産なんですよね。たくさんの人に助けてもらっています。」

点字絵本
点訳サークルともしび会が訳した図書は660冊にものぼる

——スタッフの意識改革はもちろん、利用者と交わることでそれぞれのレベルを向上させ、図書館を育てていったように感じます。

小林さん:「そうやって加わることで、自分の図書館になっていきますよね。
去年17万7180人の入館者数がありまして、その前よりもクレームがなくなったんです。ということは、不思議だな〜と思ったんですけど、利用者の市民レベルがあがっているんです。最近は若いパパなんかもいますよ。学習机も並びますよ。今は様々な年代の人が自分たちのまちの図書館として、愛してくれている実感があります。」

中津川市立図書館
子ども向けコーナーも広々とした。

|"読書"でまちをひとつに。条例に込められた想い

2013年に制定された「中津川市民読書基本条例」をご存じでしょうか。

住民の読書活動を推進する条例で、東海地方では初めてのもの。

小林さん:「これは全会一致で、議会で反対していた人たちが全会一致で読書を大切にしましょうというのをしたんですね。私は全会一致まで待ったんです。図書館のことで賛成反対するようなまちじゃなくて、本当にそれを乗り越えようと。読書は誰も否定していませんでしたから。
3回議会を待って、26回書き換えた条例です。画一的な文章に何度も修正されるのを、市民に届かなかったら、読んで分からなかったら意味がないと粘りました。中身は、本当にみんなで大事にしていきましょうね、そういう程度のものなんです。でもたった一枚ですけど、大きな意味があるんです。」

|図書館とは人である

——小林さんにとって、図書館とはなんでしょうか。

小林さん「図書館は本のためにあるのではなく、その向こうにいる人に応えるためにいます。
『本』という媒体を中心にして人が繋がる・喜ぶ・知る・癒される…
人生の様々な場面、各年代で、楽しい時にはそれを倍にしてくれたり、苦しい時にはそれを助けてくれたり、寄り添ってくれるたくさんの視野を集めた場所です。

一冊の本との出会いが人生を変えることもあるでしょう。
たくさんの導きがあるんですよ、ということをお伝えしたいなと思っています。
何かあったときにまず思い浮かべてもらえる場、立ち寄ってもらえる場でありたいですね。」

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編集部より

みなさんにとって、図書館とはどんな存在でしょう?
“利用者によって図書館は育つ”と言われます。
ひとりひとり、わたしたち市民がこの場へ参加すること、「わたしのまち」の図書館として利用し関わりを持つことが、図書館文化やまちのコミュニティをつくっていくのではないかと思います。