ヒトツバタゴが自生する地、中津川市蛭川で愛される【菓舗ひとつばたご】を訪ねました

5月初旬、ヒトツバタゴの季節がやってきた!
ヒトツバタゴの木の自生地がある中津川市蛭川地区へ行き、名を同じくする歴史あるお菓子のお店【菓舗ひとつばたご】を訪ねてみました。今回はその取材模様をお届けします!

ヒトツバタゴって何じゃもんじゃ?

ヒトツバタゴってご存じですか?
東濃地方在住の人には馴染み深いでしょうか。そう、恵那駅の交番前にも植わっている、5月の大型連休後ごろに白く細い花を咲かせる、あの花です。普段は目立ちませんが、花が咲くと「あっここにヒトツバタゴがあったんだ」と気づく、そんな樹木です。別名ナンジャモンジャとも言い、その昔、名前が分からず「何の木じゃ?」と言ったのが訛ったという説があるようです。(そのためヒトツバタゴ以外にもナンジャモンジャと呼ぶ木はある)

ヒトツバタゴ 恵那駅前

ヒトツバタゴ 恵那駅前
▲2022年5月7日撮影@恵那駅前
満開まであと少しというところでしょうか。この記事が公開される頃には散っているかもしれません……。
満開となると木全体が花で真っ白になり、遠くからも非常に目立ちます。これを見て季節の移ろいを感じる人もいるでしょう。

実はこのヒトツバタゴ、非常に珍しい樹木なんです。
『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』(林将之、山と渓谷社、2014)によると、「長野、岐阜、愛知、対馬の主に暖温帯に自生」と書いてあります。とても限定的な分布です。ふつうは「東北南部~九州の温帯に自生」「北海道、本州、四国の亜高山帯・冷温帯に自生」のような広範囲の記述が多い。
筆者は京都の大学で樹木や森林を専攻していたのですが、ヒトツバタゴは習ったことも聞いたこともありませんでした。それもそのはず、京都の山には無い樹木だったんですね。

ヒトツバタゴ(一葉たご)別名ナンジャモンジャ
学名 C.retusus
モクセイ科ヒトツバタゴ属
絶滅危惧II類

 

そしてヒトツバタゴといえばもうひとつ、老舗の菓舗、【ひとつばたご】が有名ですね。

ひとつばたご
▲パッケージには、ヒトツバタゴのイラストが描かれています。

今回、本店である菓舗ひとつばたご蛭川店に行ってみました!

(以下、樹木はカタカナでヒトツバタゴ、菓舗はひらがなでひとつばたごと表記します)

いざ蛭川へ

筆者は県外出身者で、中津川市に住み始めてまだ1年半ほどしか経っておらず蛭川に来るのは初めて。ワクワク。
青空のもと、車を走らせていると……?

あちこちにヒトツバタゴがありました!

蛭川のヒトツバタゴ
▲道ヨコの林に。

蛭川のヒトツバタゴ
▲庭木として。

蛭川のヒトツバタゴ
▲奥渡ひとつばたご公園。2001年に記念植樹されたもの。植樹の木としてヒトツバタゴが選ばれるのだ。

蛭川のヒトツバタゴ
▲日がよくあたって気持ちよさそう。

蛭川のヒトツバタゴ
▲あちこちに!
(写真はすべて2022年5月10日撮影@蛭川)

他にももっともっとたくさんのヒトツバタゴが沿道から見えたのですが、さすがにキリがないので撮影はこのへんでおしまい。大きな樹形に白色の姿は遠くからでも思わず見とれてしまいます。安全運転をこころがけましょう。

地域で愛されて120余年、菓舗ひとつばたご

菓舗ひとつばたごに到着。店舗の道向かいに駐車スペースがあります。

ひとつばたご蛭川店

ひとつばたご蛭川店

ひとつばたご蛭川店
▲店内正面には、中津の書道家、三宅武夫(1903-1990)による書が掲げられている。ひとつばたごの包装デザインも三宅氏によるもの。

菓舗ひとつばたごの三代目である小川さんご夫妻に話を伺いました。

お店の歴史は古く、小川さんの曽祖父の時代から。最初はなんでも屋だったそう。第二次世界大戦後、祖父の代でお菓子屋を始め、最初の業務形態は卸をしていたが、途中から店名をここ蛭川ならではの樹木にちなんで「ひとつばたご」とし、地域の人に向けたお菓子を作る、今に続く形態となったようです。

メインの商品はもちろん【ひとつばたご】。「卵黄をふんだんに使い、ふんわりと焼き上げ、 種々のクリームをサンドしたブッセ」です。(ひとつばたごWEBサイトより引用)
生地表面のサクッとした食感と、中の柔らかくふんわりした食感が楽しい。クリームはレーズンクリーム、マーマレードなど、数種類あります。筆者はほろ苦いコーヒークリーム味が好み。また、季節限定の味もあり、5月初旬はストロベリー味でした。初夏になると青りんご味が登場するとのこと。

ひとつばたご蛭川店
▲ショーケースにはヒトツバタゴの盆栽風の飾り物が。かわいいなあ。

ひとつばたごの他にも、和菓子洋菓子を問わず、たくさんのお菓子が並びます。5月は柏餅。秋は栗きんとん等の栗菓子。
なかでも特に人気なのは【草餅】!こだわりの粒あんを、よもぎを練り込んだ餅で包んだ、小川さんもイチオシの逸品です。

ちなみに、おへマガ編集長が好きなのは【レモンケーキ】。これもロングセラーだそうですよ。

ひとつばたご蛭川店

大切にしたいのは地元の人

小川さん曰く、お店を続けていくにあたり、大切にしたいのはやはりいつも食べてくれる、そしてお店を愛してくれている地元の人だそう。デパートにも出さず、とにかく高級志向にはしないようにしているようです。
たしかに、オススメの草餅も1個100円とリーズナブル。普段用のお茶菓子を買いにお店を利用するお客さんが多いといいます。

杵振りもなか

また、【杵振りもなか】というお菓子があります。

これは、毎年4月に催される杵振り祭りにちなんだもの。菓舗ひとつばたごも面する旧道沿いに、赤、黄、青色の鮮やかな笠をかぶって安弘見(あびろみ)神社まで練り歩く、蛭川の歴史あるお祭りです。
小川さんは、杵振り祭りの盛り上がる様子を楽しそうに教えてくださいました。そこから話題は広がって、近所の蔵元のお酒(笠置鶴)がとても美味しいこと、大昔は山にえびす鉱山があり、そこで働く人たちで大変賑わっていたことなど……。その語り口からは、地域のお菓子屋さんであり続けたいという地元愛がひしひしと伝わってくるようでした。

地元志向の素朴で味わい深いお菓子屋さん、菓舗ひとつばたご。贈答用のみならず、普段のおやつタイムのお供にオススメです。

菓舗ひとつばたご

【恵那駅前店】
営業時間 9時〜18時 火曜定休
岐阜県恵那市大井町恵那駅前中央通り
TEL 0573-26-0113

【蛭川店】
営業時間 8時〜19時 年中無休
岐阜県中津川市蛭川1117-1
TEL 0573-45-2147

【WEBサイト(オンラインショップも実施)】
https://kaho-hitotsubatago.jp/

 

長瀞(ながとろ)のヒトツバタゴ自生地へ

さて、蛭川にはヒトツバタゴがあちこちにあることは前述の通りですが、自生地(植栽ではなく自然に生えている場所)が数か所あります。中でも見事だと小川さんに教わった、長瀞のヒトツバタゴ自生地へ足を運んでみました。

長瀞ヒトツバタゴ自生地
長瀞ヒトツバタゴ自生地
▲2022年5月10日撮影@蛭川

これはたしかに大きい!大迫力です。川の対岸に植栽されたヒトツバタゴと比べると、その大きさが際立ちます。
説明看板によると、国指定天然記念物で、樹齢は推定100年以上。以前は和田川沿いに数本自生していたが、現在はこの木のみ残っているそう。

長瀞ヒトツバタゴ自生地
▲大通りからの入り口には案内看板もあります。

蛭川ヒトツバタゴマップ
▲蛭川ヒトツバタゴマップ。ヒトツバタゴ自生地は、長瀞以外にも今洞、一之瀬、田原尻にもあります。このマップは中津川市蛭川総合事務所にてWEB掲載許可をいただきました。

自生地は蛭川以外にもありますよ。安全運転に気を付けて、ヒトツバタゴ巡りへGO!
恵那市公式観光サイトえ~な恵那 ヒトツバタゴ

恵那ヒトツバタゴ
▲恵那駅北側、東禅寺近くのヒトツバタゴ。2022年5月7日撮影。

恵那ヒトツバタゴ
▲恵那市千田のヒトツバタゴ。2022年5月7日撮影。満開まであと少し!

編集後記

菓舗ひとつばたごと樹木ヒトツバタゴを絡めたこの記事。きっかけは、筆者が住む家の庭に、シンボルツリーとしてヒトツバタゴが植わっていたことでした。初めて聞く樹木の名。あれ?もしかしてひとつばたごっていうお菓子屋さんと関係あるの?あるよね?そんな些細な興味を膨らませてみたのです。

いざ蛭川に行ってみると、ヒトツバタゴがあちこちにありました。街路樹、庭木、植樹……そして自生。巨木も多い。山に囲まれた山村で真っ白に輝くヒトツバタゴ。あの綺麗な木と同じ名前を店名に、そして菓子名にしよう、その気持ちがとてもよく分かる気がしました。

お忙しいなか取材に応じてくださった小川さんご夫妻、ありがとうございました。

筆者プロフィール
中野周平。1989年山口県生まれ。2020年冬から中津川市に住んでいる。恵那市岩村町の果樹園に勤務しつつ、絵や文も書く。好きな樹木はオオバヤシャブシ。これまでに山口、京都、東京、石川、群馬に住んだことがある。趣味は登山とお絵描き。
2022年5月、西日本出版社より『僕の歩き遍路 四国八十八ヶ所巡り』発売。

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