中津川の森のようちえん くりくりで出会った、本物に触れ、本当の自由の中で育つ子どもたち。
「森のようちえん」を知っていますか?森のようちえんとは、自然体験活動を基軸にした子育て・保育、乳児・幼少期教育の総称です。
中津川市で唯一、認可外保育園の森のようちえんとして運営されているのが、「森のようちえん くりくり」。
元中学校体育教師で代表の古田浩之さん、保育士・幼稚園教諭の吉村伸子さん、保育士・幼稚園教諭の熊田結加さんの3人が2019年に立ち上げ、現在、16名の園児と共に立ち上げから5年を迎えています。
今回は森のようちえん くりくりの拠点に伺い、子どもたちの様子と、運営の方の思いを聞かせていただきました!
森だから、異年齢だから、育まれる学び
森のようちえん くりくりの拠点があるのは、中津川市蛭川。岐阜県道72号の途中で、少し細い道を曲がるとすぐに到着。てっきりもっと山奥にあるかと思っていましたが、すぐ近くに民家もあるエリアです。
駐車場で、スタッフの皆さんや子どもたちに自己紹介をすると、早速子どもたちが手を引いて森の中へダッシュ!
すぐに大人に話しかけ手を引いていくコミュニケーション力にびっくりしている暇もないほど、走るのが早い早い…!!こんなにも逞しいのか…と、到着して1分の間に思い知らされまくります。
朝9時。全員で円を作り、くりくりの1日が始まります。
くりくりは異年齢児保育、つまり年少〜年長まで、3学年が同じ場で過ごします。年齢が違う子とのペアが組まれており、年上の子たちは年下の子をお世話したり、ルールを教えたり、逆に年下の子は年上の子を頼ったり、憧れたり…と、大人が何かを言わなくても、子どもたちが自分たちで育ち合う工夫がされています。
おへマガ編集部がおじゃまさせてもらった日は、ちょうど「学び場」の日。子どもたちが知りたいことや、子どもたちに知って欲しいことなどを学ぶ時間です。
この日のテーマは性教育。プライベートゾーンについて、スタッフさんがイラストを見せながら教えてくれます。
性教育はこの時期に毎年行なっているそうで、年中・年長の子たちは、スタッフさんの出すクイズに、どんどん手を挙げて答えていました。
年長の子たちが理解できるレベルに合わせて設計され、春には危険生物や植物、夏には虫、また昨年は東山動物園までお出かけするなど、本物に触れながら様々な学びが得られるようになっています。
森の日、土の日、ごはんの日‥主体性のスイッチが押される仕掛け
くりくりでは、月・金がゆっくり森で過ごす森の日、火曜日がフィールド内の山小屋へ出かける冒険の日、水曜日が近くの畑や田んぼに出かける土の日、そして取材させてもらった木曜日は、ごはんの日。みんなで持ち寄ったものを使って、お昼ごはんを作ります。
この日のごはんはかぼちゃスープ。スタッフさんと一緒に、カボチャを切って、火を起こして、鍋でぐつぐつ煮込みます。
スタッフさんの真似をしたり、自分で役割を見つけて動いたり。
ご飯を作りながら、一緒に作る楽しさを味わいます。
「もうちょっと塩があるといいかも!」「お!じゃあちょっと、塩を入れてみようか。」
味付けも子どもたちと一緒にして、いよいよスープ完成。
それぞれ持ってきたパンと一緒に、かぼちゃスープをいただきます。
てっきり全員でごはんを作るのかと思っていましたが、ごはんを作っていた子どもは4人ほど。
ごはんの日なのに!?と驚く編集部でしたが、スタッフさん曰く「作らされるものじゃないから、大人が背中を見せて、やりたければやればいい」。
「遊んでいても見ているし、メニューによっては参加したり、急に目覚めたり。料理をしていなくても、子どもたちの中では学びの連続。ある日突然歩き始めたり喋り始めたりするのと同じで、やらせなくても何かが育っているんです。」
ただ遊ぶ、ただほかっているのではなく、子どもの主体性のスイッチが押される仕掛けが意識されているんです。
ちなみに、ご飯を作っていない子たちはというと…
フィールドの中にある、ブランコで遊んだり。
塗り絵をしたり。
粘土で遊んだり。
森のあちらこちらで、子どもたちが自らルールを守り、やることを決めて、コミュニケーションをとりながら動いています。
森のようちえんと聞くと、ひたすら子どもたちが元気に自然の中で遊んでいるというイメージが先行しがちですが、ここにあるのは、ただ勝手に遊ぶのではなく、子どもたちが自分たちでルールを守りながら、1つ1つのことを決めて動く姿。
どのようにして、この風景が実現しているのでしょうか?
本物を見て本物に触れる。中津川に森のようちえんができるまで
くりくりの運営について教えてくれのは、立ち上げメンバーの一人で、冒険教育等の自然学校や小学校で働いた経験もある吉村伸子さん。吉村さんは、結婚を機に中津川に住むようになる前は、1年半ほど長野の森のようちえんに携わっていました。
「森のようちえんで子どもが成長する姿を見て、森の中で子どもが本物を見て、本物に触れるという原体験を小さい時にさせたい、と感じるようになりました。本物を見て本物に触れるという考え方自体は、室内でもできることですが、森でやるからこそ、自然のサイクルを五感で感じたり、体の使い方を成長させたりできます。」
長野での経験を胸に、漠然と「自分の子どもができたら森のようちえんを立ち上げよう」と考えていた頃に出会ったのが、立ち上げメンバーの2人。共に視察や話し合いを重ねて、森のようちえんくりくりが始まりました。
本当の自由を身につけるためには、まず子どもに人として接することから
立ち上げから5年。現場で子どもたちに向き合い続ける吉村さんの言葉から感じるのは、子供に対しても人として接する姿勢と、そして子どもたちも大人に対して人として接している実感です。
「やりたいから何でもやっちゃう!が自由ではなくて、お互いが気持ちよく過ごせるようにしながら、自分で決めて動くことが自由。そしてこれを大切にするには、大人の態度が大切なんです。」
どうでもいい話をダラダラしない、誰かが話しているときは遮らずに話を聞く…お互いが気持ちよく過ごすとはどういうことか、大人たちが態度で示すことがまず最初の一歩。その上で、「それはだめ!」ではなくて「〜〜だと危ないからダメだよ」「〜〜されたら、〜〜くんはどう思う?」と、丁寧に対話することで、子どもたちは納得してルールを守るようになっていくのだそうです。
とはいえ、その裏には泥臭い努力があるんです。スタッフの価値観がバラバラにならないように、スタッフ同士で毎日日報を共有。「あの時、あの対応で良かったのか?」を振り返っては、自由とは何か、自分たちはどんな行動を取るべきかを日々追求しています。
そして、子供にとって大きな存在、保護者にも向き合うのがくりくり流。くりくりで大事にしていることや子どもの最近の様子をシェアする「保護者ミーティング」や、月に1回ほど「ファミリーDAY」という保護者も参加して一緒に過ごす日があるなど、かなり親密に保護者とのコミュニケーションをとっています。
「保護者の方たちと一緒に育ちあう姿勢を大切にしながら、お家にも向き合っています。他の園では気にしないようなことでも、子どもたちを見ていて気になったことがあったら、見逃さずに踏み込むようにしています。」
森のようちえんと聞いてパッと目に入る自然や自由さの裏側にあるのは、徹底的に子どもに向き合う姿勢なのです。
ゆくゆくは小学校を。森の中で学ぶ場所を選んで通える未来へ
最後に、これからのくりくりについて教えてもらいました。
「今は森のようちえんだけですが、ゆくゆくは小学校をやりたいですね。小学校に代わって通えるようなカリキュラムを設計して、森の中で、学びたいことが学べる環境を作りたいです。森のようちえんがあって、他の保育園や幼稚園があるように、小学校も同じように、公立の小学校があり、森の中で学ぶ場所があって、その中で選んで通えるようになるといいなと思います。」
見学会や説明会は、森のようちえんくりくりのホームページやInstagramから。
<編集後記>
2023年、最も印象的だった取材の1つと言ってもいいほど、感動しきりの時間でした。自然の中で育つこと、自由を尊重することー「いいね!」と言う人は多くても、実践できる人は少ないでしょう。こんな大人になりたい、と思うスタッフの皆さんに出会えて、私自身とてもハッピーです。
<森のようちえんくりくり情報>
住所:岐阜県中津川市蛭川338-1
ホームページ:https://inochimori8.webnode.jp/home/
Facebook:https://www.facebook.com/inochimori.kurikuri
Instagram:https://www.instagram.com/morinoyouchien.kurikuri/